Polimill株式会社は2025年7月23日、愛知県日進市と生成AI活用に関する連携協定を締結しました。

これに先立ち、同年5月の第1回研修を皮切りに、計6回の研修、3回の相談会、そして各職員による個人単位のPoC(概念実証)まで、約1年にわたる伴走支援を実施。令和7年度の6月議会での試行では、議会対応業務で当社の生成AI「QommonsAI(コモンズAI)」を活用した職員の96%が「仕事の効率が向上した」と回答し、導入初期で1部署あたり最大2時間の作業時間短縮を実現しました。

単発のツール導入で終わらせず、生成AIを全庁にどう浸透させていくのか。そのために奔走した、同市総合政策部 企画政策課主査の田中佑樹さん(昨年度まで情報広報課に所属)、情報広報課主任主査の鈴木伸弥さん、そして当社代表取締役COOの谷口野乃花の3名が、その1年間の歩みを振り返ります。

実務に耐えうる正確性を追い求めてたどり着いた「QommonsAI」

──まず、生成AIの導入を検討されるようになった背景から教えてください。

田中さん:市役所の業務の中には、繰り返し作業の多い単調な事務が多くあります。文書作成の機会も多く、AIを使って効率化できないか、単調な作業はツールで削減できないか、と考えるようになりました。先行自治体の事例を参考に、令和5年度から情報収集を始め、令和6年度には複数の製品でトライアルを実施しながら、少しずつ庁内への導入を試みました。

──例えば、生成AIを使って「業務時間を何時間削減する」といった具体的な目標を最初から立てていたのでしょうか。

田中さん:いえ、そこまでは決めていませんでした。 まず使ってみないと何に使えるかわからない部分もありましたから。もともと当市は新しい技術に対して積極的に試してみようという風土もあり、まずは使ってみようということで導入しました。

鈴木さん:神奈川県横須賀市が全国に先駆けて生成AIを導入されたと知り、セミナーに参加したりもしました。ただ、自治体はクレジットカードが使用できないなど、すぐに試そうとしても難しい場面があり、そういう事情を抱えながら、当市で導入するにはどのツールがよいか検討しました。

実務に耐えうる正確性を追い求めてたどり着いた「QommonsAI」

──2024年(令和6年)度に生成AI活用をスタートする中で、多くのツールを検討されたとうかがいました。実際、どのような課題に直面しましたか。

田中さん:例えば、以前使用していたツールだと、こちらから投げかける質問文の文字数や返ってくる回答文の文字数に制限がありました。そのため、聞きたいことが途中で切れてしまったり、望むような回答が得られなかったりしたんです。文章生成では使える場面もありましたが、コード生成のように長い出力が必要な場面だとうまく回答が返ってこないこともありました。簡単な文章作成だけでなく、もっと生成AIを活用する幅を広げたいと考えていたので、その点は大きな課題でしたね。

こういった経験をふまえて、全庁で使える“実務に耐えうる正確性”を導入要件にして検討を重ねていきました。

──庁内で生成AI導入・活用の周知をするにあたって、課題を感じたところはありましたか。

鈴木さん:案内しても気づいてもらえない、というのが課題でした。掲示板への告知に加え、最終的には勤怠管理のICカードをかざす場所の横に紙を貼るなど、職員が必ず通る場所での告知まで試みたのですが……。やはり上司が使えるようになって、部下に「こういうのを使ったらどう?」と勧めるのが、近道だと感じています。

──田中さんご自身も、業務の中で生成AIの可能性を強く感じられた場面があったそうですね。

田中さん:私が情報広報課に所属していたとき、さまざまな部署から「この業務を改善できないか」と相談を受けることが多くあったんです。私自身はコード生成から生成AIを使い始めて、マクロを作ったり、Excel関数を組み替えたりしながら業務改善を進めていたのですが、AIを使うと人のスピードでは追いつかないくらいの勢いで改善が進んだのを実感したんです。その手応えが、全庁に広げたいという思いにつながりました。

──そういった中で「QommonsAI」と出会われたのですね。

田中さん:愛知県内の他自治体の職員さんから「QommonsAIというのがありますよ」と教えていただいたのがきっかけです。実際に試してみると、議会議事録が最初からセットアップされていて、こちらで準備する時間がほとんどかからなかったんです。前年度はRAGの検証にも時間がかかっていましたし、精度面でも壁を感じていたので、すぐに使い始められる点は非常に大きかったですね。無償で試せる点や、研修を含めて伴走していただける点も魅力でした。

職員有志で「生成AIラボ」発足。ポリミルとの研修や相談会で積み上げた現場の手応え

職員有志で「生成AIラボ」発足。

(日進市で研修を実施した様子)

──谷口さんは、最初の打ち合わせから日進市との取り組みに強い手応えを感じられたそうですね。

谷口:はい。最初に日進市さんとお打ち合わせをしたときに、率直に感じたのは「生成AIの導入についてはじめからこんなにしっかりロードマップを描いていらっしゃる自治体があるんだ」という驚きでした。当時、QommonsAIを導入しているのはまだ150自治体ほどで、大都市以外のエリアでスタート時点から導入・拡大の計画をここまで言語化している自治体はほとんどない印象でした。研修する側としても、一緒に成し遂げたいことがわかりやすくてありがたかったです。

私たち自身、AI研修のプロフェッショナルと言えるほど体系化できていた時期ではなかったので、一緒に見本となるものを構築できれば他の自治体への展開にもつながると考え、ぜひ協力したいと思いました。

ポリミルとの研修や相談会で積み上げた現場の手応え

──QommonsAIの導入と並行して、2025年(令和7年)度に職員有志による「生成AIラボ」を立ち上げられましたよね。

田中さん:情報広報課だけで周知しても全庁への浸透には限界がありました。そういった反省から、生成AIに興味のある職員を横断的に集め、その人たちが各部署で使い方を広げていく流れを作りたかったんです。近くで使っている人がいたら「何やってるの?」と声がかかって広がっていくんじゃないか、と思ったんですよね。個人のスキルアップを促しながら、成功体験をする職員の数を増やすことが狙いでした。

──2025年(令和7年)5月のキックオフから2026年(令和8年)3月まで、6回の研修と3回の相談会を実施されました。研修設計にあたって、谷口さんが工夫された点も教えてください。

谷口:頻繁に日進市さんとコミュニケーションを取らせていただきながら、前回の研修以降の利用率や利用状況を共有いただき、全体の習熟状況を把握するよう努めました。実際に使い始めた職員さんの活用例をもとに研修内容を調整し、そのときの理解度や習熟度に合わせてカリキュラムを設計していきましたね。

特に、意識したのは初級と中級の“あいだ”の職員さんに合わせた研修内容を作成することです。初級的な研修をしてもそれだけで理解する人はあまり多くはありません。自席に戻っていろいろ使ってみる中でようやく壁に当たる人もいますし、そのまま使わなくなってしまう人もいます。その理解度や活用度合いに合わせてカリキュラムを細かく調整していったので、日進市さんだけでなく全国の自治体でも導入していただきやすいカリキュラムになったんじゃないかなと思いますね。

6回の研修と3回の相談会を実施されました。研修設計にあたって、谷口さんが工夫された点

──実際に研修を受けられてみて、いかがでしたか。

鈴木さん:QommonsAI自体も無料で利用させていただいているにもかかわらず、毎回谷口さんは当庁まで足を運んで丁寧に説明してくださる。現場の肌感覚を大切にされているんだなと感じました。

谷口:そう言っていただけるとうれしいです!初級編は操作説明が中心なのでオンラインでも完結できますが、応用段階になると、対面でないとその人が理解できているかどうかがわかりません。受講者の画面を隣で見て「手が止まっているな」と気づく、そのレベルの感度はリアルの場でしか得られませんから。

それだけでなく、研修を重ねるたびに職員の皆さんの熱意が目に見えて増していったことも、非常に嬉しくものすごいモチベーションにつながりました。研修中に隣の席の人とAIについて結構高度な会話をしている職員さんもいて、市を挙げて進めている取り組みの素晴らしさを実感しましたね。

研修を重ねるたびに職員の皆さんの熱意が目に見えて増していった

議会対応業務で96%が「効率化」を実感。1部署あたり最大2時間の作業時間短縮も

──1年間のPoCで最も数字に表れた成果が、議会対応業務だったとうかがいました。

鈴木さん:2025年(令和7年)5月に第1回の研修を実施し、その直後の6月議会から試行を開始しました。議会対応担当職員38人にアカウントを配布し、うち22人が準備業務に活用。利用した職員の96%が「仕事の効率が向上した」、91%が「時間が短縮した」と回答しています。1部署あたりの短縮時間は「2時間」が3人、「1時間」が6人という結果でした。

──当初想定とは違う使われ方が広がったそうですね。

鈴木さん:答弁の作成補助を主な用途として想定していましたが、実際に多かった声は「過去の議事録を検索して確認できることがよかった」というものでした。実は、前の答弁との整合性確認や関連議事録の検索に時間がかかっていたんです。生成AIを導入したことでその課題が浮き彫りになりましたね。

1部署あたり最大2時間の作業時間短縮も

──議会答弁への活用にあたって、注意されている点はありますか。

鈴木さん:「職員が楽をして勝手に回答を作るのは議会軽視だ」と受け取られることは避けなければなりません。生成AIはあくまで補助ツールであり、最終的に答弁するのは人間です。その原則をきちんと押さえておかないと、組織への信頼に関わるリスクになると思います。

──議会対応以外のユースケースについても教えてください。

田中さん:文書作成やアイデア出し、Excelマクロの生成など、幅広い業務での活用が広がっています。研修でも、最初は簡単な挨拶文を作るところからスタートして、だんだんコードを作れるようになるといった形で難易度を段階的に上げていったので、以前は全くマクロなどが使えなかったけど、今は生成AIを活用して自分でマクロを作り、業務改善につなげているという職員もいます。そういった点ではすごく成功したなと思いますね。

1部署あたり最大2時間の作業時間短縮も

──ラボ全体の成果はいかがでしたか。

鈴木さん:職員一人ひとりのスキルアップ、全庁に向けての周知、活用方法の検討という3つの目標に対して、ラボ所属職員の8割強が達成するという結果でした。口コミで広がるうちに「自分も使いたい」という声が生まれたり、課長クラスの方が「どうやって使うの?」と聞いてきてくださったりといった波及効果も少しずつ出てきています。

生成AIは使ってみないとわからない。だからこそ、まず試してほしい

──日進市さんはQommonsAIが無料で使える点をメリットに感じて利用してくださっていますが、他の自治体さんの中には「1,000アカウントまで永続無料」という点を不思議に思っているという声もあるそうですね。

鈴木さん:我々は喜んで使っているんですけど、「無料だと怪しい」「何か情報を抜かれているのではないか」と慎重になる自治体もあるようです。そうした誤解で導入をためらうのはもったいないと思います。

谷口:規格外のビジネスモデルだからこそ、そう感じられるのかもしれません。年内には低く見積もっても1,200自治体への導入を見込んでおり、今月中にはAIアプリストアの開設も予定しています。プラットフォームとして日常的に使われる場所になることで生まれるマネタイズを積み重ねていく構造なので、それが定着すれば安心していただけると思います。

──2026年4月から自治体専用ネットワークのLGWANに対応したことで、さらなる利活用が見込まれますが、日進市さんとしてはどのように受け止めていますか。

鈴木さん:インターネット経由でつなぐ手間がなくなれば、職員の利用頻度はさらに上がると見込んでいます。次のステップとしては、使っていない部署があれば業務的にAIが向いていないのか、庁内で広める役割を担う人がいないのか、要因を見極めて対応していきたいですね。

生成AIは使ってみないとわからない。だからこそ、まず試してほしい

──最後に、まだ生成AIを導入されていない自治体の方々へメッセージをお願いします。

田中さん:自治体の職員はいい意味で保守的な方が多く、生成AIに対してもまだ様子見という組織も多いと思います。しかし、生成AIを使ったらどんなことができるのかは、実際に使ってみないとわからない部分が大きいんですよね。

そこで無料で使えるQommonsAIを試してみると、業務のどこかで使えるという発見が必ずあるはずです。生成AI導入の利用目標や費用対効果を立てづらい場合であっても、まず一歩踏み出すことが大切だと感じています。

鈴木さん:パソコンやスマートフォンが普及したとき以上のインパクトが、AIにはあると感じています。そこに乗り遅れないことが大事だと思います。

多くの自治体で人口減少が進み、職員数を増やせない中で業務量は減らないという現状があります。その状況を打開するための手段として、AIをぜひ活用いただきたいですね。

谷口:今の行政の仕事は、持続可能ではないと思っています。人手が必要な業務も、書類作成も、情報管理も、すべてを限られた職員が担い続けるには限界があります。それを解決できるのはAIという手段しかないと思っています。

規模や財政的な格差にかかわらず、誰でも試せるようにしていることが、QommonsAIを無料で提供している理由です。まずその一歩を踏み出していただけたらうれしいです。